走り続けるしかなかった、たとえ暗闇のなかでも。 ~不登校・中退者の進学をサポートするキズキ共有塾代表・安田祐輔さんのライフストーリー

1章【学びからはずれた子を支援する塾がメディアで話題に】

 僕が十代だったころ、一度レールをはずれた若者が社会に復帰するための道はいまよりも限られていた。

不登校や中退者の学業を支援する場所も限られていた。 キズキ共有塾はそんな若者をはじめ、引きこもり、うつ、発達障害などで学業に支障をきたした人たちにもう一度勉強へのチャンスを与える個別指導塾だ。

生徒の心に寄りそう指導が評判となり、学校に行けない子どもやその親から大きな支持を得て、現在多くのメディアで取り上げられている。 高校を中退し、その後も仕事で挫折するたびに職を転々としてきた僕が、もしもキズキ共有塾のような存在を知っていたら……。

そう思いながら、その日池袋で開催されたキズキ共有塾の代表・安田祐輔さんのトークイベントに参加した。

2章【発達障害、家庭崩壊を乗り越えた少年時代】

安田さんは1983年横浜生まれ。
国際基督教大学卒業後、商社勤務を経て2011年にキズキ共有塾をスタートさせる。

安田さんが大学へ入るまでの道のりは簡単ではなかった。小学校のときからスポーツや整理整頓が苦手で、クラスでも常にいじめの対象にされていた安田さんは、成長してから自分は当時まだあまり知られていなかった発達障害の傾向があったのではないかとそのころを振り返る。

家庭では父親から暴力を受け、母親も家に帰らなくなるという状況で、早くから自立の意志を固め全寮制の中学へ。
しかしそこでも級友のいじめが待ち受け、さらに両親が離婚、底辺校と呼ばれる中学への転校を余儀なくされる。

周囲の環境に染まり、髪を金色に染めて不良仲間とつるんだ高校時代、成績も一時は偏差値30という最低ラインだったものの懸命の努力の末、国際基督教大学に入学を果たした。

3章【ゼロから学んだ経験があるから、挫折した彼らを教えられる】

「自分のように困難を抱えた若者が学業をおさめる支援をしたい」

大学時代、バングラデシュやパレスチナの貧しい国々をまわり、娼婦や下層労働者など過酷な運命にある人々と触れあううち、安田さんの中でそんな意志が少しづつ芽生えていった。

大学卒業後に勤めた大手の商社は希望の部署に配属されなかったこともあり、4ヶ月でうつ状態となり退職。
リハビリを兼ねて家庭教師の仕事を始めたことで、十代のときにゼロから学んだ経験があったからこそ今の自分があるのだと気づいた。

そのとき、不登校・中退者のための塾をたちあげようと決意する。
7年後、その思いは塾経営をメインの事業とする「キズキグループ」として実を結んだ。

4章【絶望からの道のりをつづった一冊「暗闇でも走る」】

現在、キズキ共有塾は代々木、池袋など都内はもちろん大阪を含む5校を全国に展開。外出が困難な人向けにスカイプを使いネットでも授業を配信し、およそ300名の塾生が在籍、1000名を超える卒業生が巣立っている。

安田さん自身は中退予防や貧困家庭の子どもへの学習支援プロジェクトを手がけ、道を踏みはずした若者が学業に復帰するための大学への講師派遣や研修など、多彩な支援活動にあたっている。 2

018年刊行の著書『暗闇でも走る』(講談社)では、安田さんの苦難に満ちた少年時代から現在にいたる道を知ることができる。

5章【考えてみよう、いまのあなたをつくったものは何か】

紆余曲折をたどってきただけに、中退・不登校などマイノリティな立場にある者の気持ちは手に取るように理解できると安田さん。自らが発達障害を抱えながらも「この症状を持つ方には、いま追い風が吹いています」と前向きにとらえる。

発達障害のみならず家族崩壊、鬱病などマイナスのカードばかり与えられてきた安田さんの言葉だけに強い説得力が感じられる。

イベントのあとのワークショップで、安田さんはホワイトボードに一行、書き記した。
“「  」に「  」の経験をしたからこそ、いまの私がある” そして参加者に向かいこんな課題を投げかける。
「このカッコの中を自分の言葉で埋めてください」 渡された紙とペンを手にしてしばらく考えた末、僕はこう書いてみた。

――「苦しいとき」に「逃げる」経験をしたからこそ、いまの私がある――

いままで、嫌なことや苦しいことがあるたびに逃げ続けてきた。

キズキ共有塾のような存在を十代のころの自分が知っていれば、こんなに困難な道を歩むこともなかったかもしれない。 でも逃げに逃げ続けた結果、こうしていま安田さんの話を聞く場所にたどり着いたわけで、これはこれでよかったのかもしれない。 こころざしの半ばで折れた日々は、ちゃんと現在につながっている。

ちょっとだけ背中を押してもらったような気持ちになった。

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